Ames試験の概要

1.Ames試験の原理

本試験は細菌を用いて突然変異性を検出する試験です。突然変異とはなんらかの影響(化学物質、紫外線、環境など)によりDNA が傷つくことによってDNA 上の遺伝子配列が変わり本来生成されるべきアミノ酸が生成されずに元の形質を再現できないことを意味します。

細菌は生育するのに必要なアミノ酸を自身で合成していますが本試験に使用する菌株は遺伝子操作によってある一部のアミノ酸の合成ができないように改良されています。この菌株に化学物質などを加えることによって突然変異が生じ、元の野生株と同じように自身でアミノ酸が合成できるようになった結果、最少グルコース寒天培地(テスメディアAN培地)上で増殖して形成されるコロニー(菌体の集合したもの)の数をカウントします。

すなわちアミノ酸合成ができないように改良した菌が突然変異により菌が本来有しているアミノ酸合成ができるように復帰するという意味から復帰突然変異試験と名付けられています。ちなみにAmes 試験とはこの試験を開発した米国カルフォルニア大学のAmes 教授に由来するものです。

2.菌株

(1)使用菌株
  1)ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium):TA100、TA98、TA1535、TA1537
  2)大腸菌(Escherichia coli):WP2uvrA

(2)菌株の選択理由
ネズミチフス菌の各菌株はヒスチジンの合成が、大腸菌の菌株はトリプトファンが合成できないように改良された菌株です。
ネズミチフス菌の種類については塩基対置換型とフレームシフト型に分けられます。
塩基対置換型とはグアニン(G)とシトシン(C)又はアデニン(A)とチミン(T)の塩基対がDNA の螺旋構造上でひっくり返っているものを言いフレームシフト型とはGC 塩基対部分(又はAT 塩基対部分)が一つ少なくなっているためDNA 上の塩基配列がシフトしているものです。
このように色々な突然変異作用(塩基対をひっくり返す、塩基対を欠落させるなど)を検出するために複数の菌株で試験が行われます。
なお上記の菌株は次のように分類されます。

 塩基対置換型:TA100、TA1535、WP2uvrA
 フレームシフト型:TA98、TA1537

(3)ネズミチフス菌と大腸菌について
ネズミチフス菌は先のAmes 教授により開発された試験系で網羅的に突然変異を検出するものです。
一方大腸菌については金属イオンやアゾ化合物にネズミチフス菌より高感度であるため現在は標準的な組み合わせとして用いられています。

(4)ネズミチフス菌の種類について
塩基対置換型としてTA100とTA1535がフレームシフト型としてTA98とTA1537が用いられますが同じ検出系で2種類の菌株を用いるのは薬剤耐性因子がTA100 およびTA98 に組み込まれているためです。
その理由として化学物質の中には抗生物質のように菌そのものを殺してしまう作用のものがあり菌の死滅によって突然変異が検出できなくなることを防ぐために薬剤耐性因子(アンピシリン耐性)を組み込んだものです。

3.実施試験

(1)試験
予備試験および本試験を行います。

(2)試験目的
予備試験の目的は本試験の用量設定を行うもので本試験は結果の再現性を確認するもので設定する用量が異なる(同じときもある)以外行う操作は全て同じです。

(3)試験構成
菌株ごとに陰性対照(溶媒)、サンプル(5~7 濃度を設定)、陽性対照(1 濃度)(ポジコンAM マルチセット)とし、代謝活性化によらない場合と代謝活性化による場合の2 系列で試験を行います。
使用するプレート数は濃度ごとに2枚を用います。使用プレート数は下記の通りです。

  5 菌株×7~9 試験濃度(陰性対照、サンプル:5~7 濃度、陽性対照)×2 系列(代謝活性化によらない場合、代謝活性化による場合)
  ×2 試験(予備試験、本試験)×2 プレート=280~360 枚+α(無菌試験に数枚使用)

(4)代謝活性化
ヒトにおいて化学物質によっては代謝されてはじめて突然変異を引き起こす作用(変異原性という)を示すものと代謝されないほうが変異原性を示すものが存在するため、本試験ではその両方について試験を行います。代謝活性化の方法はラットの肝臓をすりつぶして遠心分離(9,000G)した上清液(S-9:この中に代謝酵素が含まれている)に必要な補酵素(Cofactor-I)を加えたもの(一般にS9 mix Cofactor Aセットなど)を菌液と化学物質を作用させるときに加えます。

4.試験の流れ

 ①各菌株を液体培地中で37℃、8~10 時間(菌数が増殖ピークとなる)振盪培養します。

 ②菌液、S9 mix(代謝活性化による場合)又はbuffer(代謝活性化によらない場合)、
   検体液を混合し軟寒天を加え最少グルコース平板培地(テスメディアAN培地)に撒き広げます。

 ③37℃、48 時間培養し形成されたコロニー数の計測、菌の生育阻害の観察(培地中にみられる細かい菌の生え具合を実体顕微鏡で観察)を行います。

5.用量設定

(1)予備試験
最高用量は5000 μg/plate とし以下公比√10 で5~7段階の用量を設定します。

(2)本試験
予備試験において菌の生育阻害がみられた濃度を最高(菌の生育阻害がみられない場合は5000 μg/plate または5 μL[サンプルが液体の場合])として、菌の生育阻害を示さない濃度が少なくとも4 用量以上含まれるように公比2 により5~7段階の濃度を設定します。

6.判定基準

試験の成立条件として陰性対照の自然復帰変異コロニー数(なにも処理をしなくても自然と復帰してしまうものがある)と陽性対照の復帰変異コロニー数が背景データの範囲内であることとします。判定は試験成立条件を満たした上で検体での復帰変異コロニー数が陰性対照の2 倍以上でかつ用量に依存して増加した場合に陽性と判定します。

なお用量に依存しない場合(多くは最高用量のみ2 倍以上でその他の用量で2 倍以上のコロニー数がみられないケース)は用量設定を細かくして再度試験を行います。

7.その他

上記に示した方法は日本国内のガイドライン(薬事法、安衛法、化審法、農薬など)で示されているものです。一方ヨーロッパなどではOECD の化学物質ガイドラインが用いられていますが国内法との違いは再現性確認として本試験を2 回同一条件で繰り返すこと(予備試験とあわせると3 回行うことになります)、本試験における使用プレート数が3 枚(これにより予備試験は1 枚でもOK)用いることです。

■微生物変異原性試験研究会(BMS 研究会)
   http://www015.upp.so-net.ne.jp/aqua-h/(外部リンク)
Ames 試験講習会の開催、Ames 試験Q&A などの資料を掲載しています。
Ames 試験の詳細については本研究会までお問い合わせください。

参考サイト

■化審法(化学物質審査規制法)の最新情報はこちら

(財)製品評価技術基盤機構

監視化学物質への該当性の判定等に係る試験方法及び判定基準

■菌株の入手はこちら

(財) 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)

 

■バイオセーフティの情報はこちら

国立感染症研究所 病原体等安全管理規程(第三版)

日本細菌学会 病原体等安全取扱・管理指針

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Cell Assay、安全性試験、変異原性試験

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